ホテルに誘われた時点で

ホテルに誘われた時点で

『紫紺』はホテルの窓に面し、昼はティーラウンジ、

 

「すみません。」

 

と声をかけられた。

 

中肉中背の女がそこに立っている。

 

「私、佐々木です。」

 

「はい?」聡志は聞き直した。

 

佐々木夫人に娘がいてもおかしくはないが、風貌がまるきり違う。

 

「佐々木美奈代です。

 

恵津子の娘です。」

 

聡志のとまどいを読んだのか、美奈代ははっきり名乗った。

 

「いつぞやマルイチデパートでお会いしたと思いますが、覚えていますか?」

 

「・・・いいえ。」

 

美奈代は、聡志の印象に残るような女ではなかった。

 

「どうぞ、ここに座ってください。」

 

美奈代は聡志に席を勧めた。

 

二人は向かい合って座った。

 

しばらく沈黙の間が空いて、美奈代が思いきったように言った。

 

「あなた、母の愛人ですよね。」

 

聡志は黙ったままである。

 

「『煙突屋』って、何ですか?」美奈代は畳みかけて聞いたが、なおも聡志は押し黙ったままだった。

 

「教えてください。

 

さもないと小瓶は返しません。」

 

声のトーンが高くなるのが、美奈代は自分で分かった。

 

「ちょっと。

 

ちょっと待ってください。」

 

聡志は美奈代を制し、電話をかけた。

 

最近、どういうわけか社長の美詠子に判断を仰がなければならないことが多い。

 

電話に出た美詠子に聡志は事情を話した。

 

「そのホテルに誘われた時点で私に報告しなきゃダメ。」

 

と美詠子は聡志に言った。

 

「仕方ないわ。

 

その方と替わって。」

 

聡志は美奈代に電話を渡した。

 

「佐々木さんですか、『煙突屋』社長の美詠子と申します。」

 

「『煙突屋』って、何ですか?」美奈代は挨拶も抜きに、いきなり切り出した。

 

「ええ、まあ、一種の人材派遣業ですわ。

 

お母様のような方の需要に応じてそれに合った方を派遣しております。」

 

「愛人派遣業なんですね。」

 

「はぁ、有り体に言えば。」

 

ここ数日の美奈代の疑問は氷解した。

 

しかし、彼女は質問を続ける。