かわいい顔

昼間、あんなことをしたんだもの。

 

これから、店を閉めて、拓哉君と……。

 

考えただけで、私の身体は、また熱くなっていた。

 

表に車の停まる音がした。

 

「遅くなりました」

 

店内に入ってきたのが、拓哉君じゃなかったので私はがっかりした。

 

礼服を届にきたのは、若い従業員の拓哉君だった。

 

お客さんは、何度も御礼を言いながら礼服を持って帰っていった。

 

私は、早く店を閉めて帰りたくなった。

 

「拓哉君が来なくて残念でしたね」

 

「えっ、どういう意味ですか?」

 

「だって、知美さん、拓哉君が来ると思ってたんでしょう」

 

「別に、残念じゃありませんよ」

 

二十歳そこそこの、まだ顔にニキビがあるような若い拓哉君は、拓哉君と私の関係を知っていることをほのめかしているのかもしれなかった。

 

そんな、言葉に引っかかるもんですか。

 

どうせ、あてずっぽうでしょう。

 

「もう、閉めますから」

 

用が済んだら帰ってください。

 

というつもりでそう言った。

 

「手伝いますよ」

 

私が迷惑そうにしていても、拓哉君は平気な顔で閉店のための作業を手伝っている。

 

見ていると内側からシャッターを全部おろして鍵を掛けてしまった。

 

「それじゃあ、自分が出られないじゃないの」

 

マヌケなことをしている拓哉君を、からかうように笑うと、拓哉君も笑顔を返してくる。

 

けっこう、かわいい顔してたのね。

 

今まで笑ったところを見たことなかったから気づかなかったわ。

 

「いいんです、これで」

 

「だって、どこから、帰るのよ」

 

「まだ、帰らないから、いいんです」

 

「どうして?私は帰るわよ」