乱れた服

拓哉君が真顔になって一歩近づいてきたので、私は思わずあとずさった。

 

「知美さん、拓哉君のこと、好きなんですか?」

 

「さっきから、なに言ってるの、そんなことないわよ」

 

カウンターと壁のあいだに挟まれて、逃げ道がない。

 

拓哉君はどんどん近づいてくる。

 

「俺じゃあ、だめですか」

 

「なんのことを言ってるのか、わからないわ」

 

「知美さん、俺、前からずっと知美さんのことを、好きでした」

 

「冗談、やめてよ」

 

「俺は、真面目です」

 

もう、これ以上、下がれないところまで後ろに下がった私の背中は壁に張り付いている。

 

さっきまで疼いて熱くなっていた私の身体は、今は冷えている。

 

拓哉君が相手だと、なぜか安心して身をまかせていられるのに、目の前の若い男に迫られている今は、ただ怖かった。

 

「私、帰りますから、どいてください」

 

「いやだ」

 

壁際に追いつめられて、今にも飛びつかれそうになっている私は、それでもなんとかこの場を逃れようと必死に言葉を探した。

 

だけど、私がなにか言うより先に拓哉君が私の肩を掴んだ。

 

「知美さん」

 

「いやっ、触らないで」

 

「好きなんだ」

 

無理矢理に乱暴なキスをされてしまう。

 

拓哉君の膝が私の両足のあいだに割り込んでくる。

 

「知美さん、ごめんなさい」

 

拓哉君の身体が私から離れた。

 

私はなにも言わずに黙って乱れた服を直した。

 

「すみませんでした、許してくれますか」

 

そのまま、黙っていると拓哉君はあきらめたようにうなだれてシャッターを開けようとした。

 

「待って」

 

振り向いた拓哉君の顔は、さっきと違って気弱そうに見えた。

 

「まだ、帰らないで」

 

「知美さん?」

 

私は、拓哉君の手を取って、ブラウスの上から胸に押し当てた。

 

「乱暴なことはしないって約束して……」

 

「はい、約束します」

 

私は、胸の上に置かれた拓哉君の手を、スカートの中に導いた。