一晩お付き合い

「あの、私、母のしていることを咎めるつもりはありませんの。

 

ですが、私のような者でもお宅様を利用することはできますか?」

 

「あの、お嬢様がですか?」

 

「はい。」

 

「失礼ですが、お嬢様はご結婚されておいででしょうか?」

 

「・・・いいえ。」

 

「基本的に、未婚者の方のご利用はお断りさせていただいておりますの。

 

あしからず。」

 

美詠子の口調はきっぱりと厳しかった。

 

「分かりました。」

 

落胆した美奈代の声に構わず、美詠子は

 

「では、もう一度徳能に替わっていただけます?」と冷たく言った。

 

美奈代は聡志に電話を返した。

 

聡志は二言三言しゃべってから電話を切った。

 

「私は、ダメなんですってね。」

 

しばらく押し黙ったままの美奈代が、自分に言い聞かせるように言った。

 

聡志は黙っている。

 

美奈代は顔を上げて早口で言った。

 

「『煙突屋』とは関係ないということで、一晩お付き合いしていただくわけにはいきませんか。

 

こちらがお礼を致しますから。」

 

美奈代の必死の申し出に、聡志は首を横に振った。

 

「お断りします。」

 

「なぜですの。

 

このクスリで母とは寝られるのでしょう?」

 

「業務外では使わないことにしているのです。」

 

「嘘言わないで。

 

ホントのことをおっしゃらないと、小瓶は返しません。」

 

聡志は噴き出しそうになった。

 

「わかりました。

 

それでは3日後に、ここで、ということではいかがですか?」

 

美奈代の顔がパッと明るくなった。

 

「本当ですか?」

 

聡志はうなずき、「あくまで、当社の業務の『例外』として、ですよ。」

 

と念を押した。

 

「うれしい。

 

3日後、きっとですよ。

 

それまで小瓶はお預かりします。」

 

聡志は苦笑した。

 

「その小瓶、どうやって手に入れたのですか?」

 

美奈代は少し微笑んだ。