男に抱かれる喜び
「ううっ」
小さく女が呻き、脚を締めた。
すると、股間から淫液と精液が混じったものが幾筋もの流れになって太腿へと伝い下りた。
時折襲う痙攣に似た硬直と弛緩を繰り返しながら、美詠子は社長机の上で、豊艶な肢体をさらしていた。
ちょうど論文の執筆に気持ちが乗りかかって来たところだ。
しかし、約束の時間は近づいている。
しかも、今日は厳密に言うと午後2件の仕事をこなさなければならない。
さらに「同僚」との下打ち合わせも必要だった。
聡志は服を着ると、机の上に広げた論文の資料と、ステレオから流れる交響楽『スコットランド』をそのままにして家を出た。
聡志は、これまで「煙突屋」の同僚に会ったことはない。
全体を知っているのは社長の美詠子だけだ。
ふと、3日前の美詠子との激しい交合のことを思い浮かべた。
彼女は、自分以外の使用人と寝ているのだろうか。
どういう基準を満たせば彼女と寝られるのか。
ただ、一つだけ言えることは、「あのときの彼女」は、聡志と交わりたかったということだ。
今はそういう気はないだろうし、再びそういう気になることがあるのか、疑問だった。
ホテル近くの喫茶店で、聡志は岩本とおちあった。
岩本は聡志と背格好が似ている。
聡志が香辛料のクスリのことを話すと、岩本は興味を示した。
しかし、美奈代のことがある。
二人は、サンドイッチをぱくつきながら、これからの段取りについて話をすることにした。
午後1時半、ホテル・マルブルグの3階『紫紺』で聡志は再び美奈代と会った。
男に抱かれる喜びにあふれている様子であったが、服装も外見も男の食指が動くものではなかった。
いざ対面して席に座ると、緊張しているのか美奈代は口数も少なく、運ばれてきた紅茶にもほとんど口を付けない。
「じゃ、行きましょうか。」
と聡志が声をかけると、美奈代はビクッとしたように立ち上がった。
そして、顔を伏せて、先に立つ聡志についてきた。
上のフロアへと上がっていくエレベータの中で、聡志と美奈代は二人きりになった。
美奈代はハンドバッグから例の小瓶を取り出すと、
「これ、お返しします。」
と小さな声で言った。
「あ、どうも。」
聡志は心の中で苦笑しながらそれを受け取った。
19階で下りた二人は、ホテルの一室に入った。
入ったはいいが、美奈代はどうしたらよいか分からず、部屋の中央で突っ立っているだけだ。
「じゃ、荷物はここに置きましょうか。」
聡志は、ハンドバッグを受け取って、机に置いた。
そして、ベッドの縁に腰をかけると、美奈代を隣に座らせた。
「恥ずかしいですか?」
と聞くと、美奈代は小さくうなずいた。